うみなりブログ。

アラフォー腐女子が、BL要素のある文学作品をイラスト付きでゆるく紹介します。日本近現代文学が中心。BL・同性愛的な表現が苦手な方はお気をつけ下さい。

加賀乙彦「砂上」

武田一義先生「ペリリュー〜楽園のゲルニカ」(双葉社)という素晴らしい戦争漫画があります。

可愛い絵柄なのに戦争の残酷さや悲惨さがしっかり描かれており、また主人公以外のキャラクターにも感情移入出来るような描かれ方がしていて、本当に素晴らしかったです。大好きな漫画の一つです。

そして私は、このような素晴らしい漫画ですら腐った目で見つめることの出来るどうしようもない人間です。何か語ってはいけないような気もしますので、「ペリリュー」の腐った話しはここではしません。

今回は軍隊ものの話しなので、導入に戦争漫画のお話をさせていただきました。

加賀乙彦先生の「砂上」。敗戦後の話しなので、厳密に言うと軍隊ものではありません。

加賀乙彦先生の軍隊ものと言えば、BL要素有りの「帰らざる夏」が割と有名だと思いますが、あえてこちらです。

「帰らざる夏」は「給仕の室」と並んで高校生の私に多大な影響を与えた作品です。後日改めて熱く語りたいと思いますが、まず「砂上」の説明をするのに、「帰らざる夏」の説明をします。「帰らざる夏」と繋がった作品だからです。

「帰らざる夏」「砂上」のネタバレがありますので、大丈夫な方のみ続きをお読みください。

「帰らざる夏」は戦時中に陸軍幼年学校生だった少年が主人公です。ここで軍国主義思想を叩き込まれた少年が戦時中そして敗戦時に何を考えどう行動したかが書かれた名作です。作中に同性の先輩達との恋愛模様が書かれているBL小説でもあります。ものすごく萌えます。BL要素抜きでもものすごく読み応えがありますので戦争ものに興味がある方には特にオススメです。

「帰らざる夏」の主人公、鹿木省治はラストで自殺してしまいますが、鹿木少年のような元幼年学校生がもし生き残っていたらというような設定で書かれた短編がいくつかあります。

私が知っているものは「異郷」「雪の宿」「砂上」「残花」ですが、もしかしたらまだあるかもしれません。

主人公は同一人物ではなさそうですが(「異郷」と「雪の宿」は同じっぽい)、「異郷」→「雪の宿」→「砂上」→「残花」と読むと何となく時系列の辻褄が合います。

「異郷」と「雪の宿」は敗戦〜1年後位の話しで「砂上」はそれより少し先、「残花」は20年後くらいの話しです。

共通して書かれているのは、軍国主義思想を叩き込まれた少年の敗戦後の悲哀です。

心から信じていたものがある日突然無くなってしまった少年に感情移入して読むと、本当に居た堪れなくなります。加賀先生ご自身が陸軍幼年学校で敗戦を迎えているので、「帰らざる夏」からこれらの短編まで、ある意味自伝だと思います。そして加賀先生、当時の写真を見たら超美少年でした。上級生が自分を取り合って…とか「加賀乙彦自伝」(ホーム社)に書かれていたので、BL要素についても自伝らしいです。

とにかくその短編の一つ、「砂上」にBL要素がありますので、そちらに触れたいと思います。

主人公は元幼年学校生(作中では歩兵学校)の17歳の美少年。名前は出てきません。占領軍の領事館に勤めて雑用をする日々。

もう敗戦後にささくれてしまって、老人のような冷ややかな目で世の中を見て過ごしています。この少年が書いた日記形式で進むのが、この作品です。

領事館で雑用をしながら、淡々と日々を過ごす主人公は、ある日Gという外国の軍人と出会います。Gに誘われてドライブに行ったり、海水浴に行ったりします(2人きりでなくもう1人通訳も同行していますが)。そしてGに求められた際に、特にGに好意を持ったからという訳でなく「少年兵の時に上級生から稚児にされることは嫌いではなかった」ので身体の関係を持ちます。もー何なんだか…。ちなみに主人公は鹿木少年ばりの美少年です。Gを見事に手玉に取る小悪魔性と、淡々とした感じが堪りません。

敗戦時に全ての情熱を持っていかれてしまったような抜け殻のような主人公が、Gとの交流を経て、今までずっと閉じこもっていた場所から「外に出たい」と思い、外に出ようとする所で物語は終わります。

こう書くと何か希望があるラストのような感じですが、何か希望がある感じでもないんですよね…。何かに急き立てられてる感じというか…。彼はその後どうなってしまったのか心配になります。「帰らざる夏」ほどではないのですが、ラストに何とも言えない気持ちになりました。

集英社文庫「異郷」(こちらは絶版のようです)、潮出版社加賀乙彦短編小説全集4」で読むことが出来ます。

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