三島由紀夫先生が榊山保という名義で書いたゲイ小説「愛の処刑」の感想です。
同性愛表現あります。以下お気をつけ下さい。
さて、当ブログでは初めて取り上げます、三島由紀夫先生。
近現代文学でのBLを探すなら、ゲイが出てくるらしい「禁色」とか「仮面の告白」とか書いている三島先生だろう!(偏見)と、BL文学ハマりたて当時には当然ながら三島文学に臨みました。
臨みましたが、高校生の私は「禁色」を読もうとして余りの難しさに完膚なきまでに挫折してしまったのです。
そこから三島先生=難しい、というイメージがどうしても拭いきれずに、三島先生には全く触れずにここまで来てしまいました。(何故か「憂国」だけは読みました。)初心者はもっと短くて読みやすい短編とかからチャレンジするべきでした。
さすがにあれから○○年経って読書レベルも上がっているはずですので難解な長編以外なら当時よりはまだ読めるだろうと、Twitterのフォロワーさんに教えてもらった「愛の処刑」を読んでみることにしました。
この「愛の処刑」は三島由紀夫先生が榊山保という名義でゲイ雑誌に書いた小説らしいです。
という訳でBLではなく完全にゲイ小説です。
読んだ感想を一言で書くなら、
「いや、もう、ヤバいです…。」
としか書けません。
私の語彙力が残念なのは、当ブログを以前より読んで下さっている方々なら周知の事実ですが、
「とりあえずものすごくヤバい世界に放り込まれました…。」
としか言えません。
芥川龍之介先生の「VITA SEXUALIS」「SODOMYの発達(仮)」の時にもヤバいとしか言っていなかったような気がするんですが、それとはベクトルの違うヤバさです。
芥川先生のR18作品(違)の感想はこちら↓。ヤバいです(語彙力)。
芥川龍之介「VITA SEXUALIS」「SODOMYの発達(仮)」 - うみなりブログ。
「愛の処刑」の何がヤバいかをご説明するのに、とりあえず簡単にネタバレありのあらすじを書きます。
好きな教師に切腹を要求し、教師が苦しむ様を見た後に自分も青酸カリで自殺しようと考えている美少年の話、です。
切腹∑(゚Д゚)⁈
ハイ、切腹です(*'▽'*)!
何故に先生(体育教師・大友信二)がそのような状況に追い込まれるかと言いますと、教え子の田所というちょっと生意気な美少年(←ポイント)を叱りつけて、雨の中立たせていたら運悪く田所が肺炎になってしまい死なせてしまったという過ちをおかしていたからです。
先生は自宅で罪の意識に苛まれますが、そこに今林俊男という大人しい美少年(←ポイント)が訪ねてきて、先生は自分の親友である田所を殺した責任を取るべきだ、と迫ります。
どう償ったら良い?と戸惑いながら聞く先生に今林はなるべく楽に死なないよう切腹を要求します。
という流れで 切 腹 です。
切腹が自殺の方法の選択肢として当然のように出てくる時点でもう何かしらヤバいんですが、この話の何が本当にヤバいかと申しますと、先生、実際に喜んで切腹して死んじゃうん(※厳密には終了時には瀕死の状態)ですよ。
そして、今林が変態なところもヤバさに拍車を掛けています。
今林はとりあえず先生のことが大好きなんですが、その大好きな先生が苦しむところを見たくて堪らずに、このような要求をするのです。
「親友の田所が死んだから」は口実で、本当は田所なんてどうでも良くて、「大好きな先生が自分の言いなりになって苦しんで死ぬ様が見たい」その一心で先生の家にまで押しかけています。
当ブログではこれまでに「給仕の室」と「豚と緬羊」という変態小説を取り上げましたが、それらの登場人物と比べても今林くんはぶっちぎりで優勝できそうなくらい、ぶっ飛んでいます。
今林は先生が苦しむ様を見たくて堪らないので、変態の系統としてはSM小説(違)の「給仕の室」と似たような方向性になるかと思いますが、「愛の処刑」は完全に何かが振り切れて死人まで出ています(※予定)ので、あまり比べられるものでもなさそうですが、一応貼っておきます。↓
日下諗の「給仕の室」について熱く語る。 - うみなりブログ。
先生は先生で、今林のことが好きで、死なせてしまった美少年・田所のことも好きだったので償いの為に喜んで切腹することを決意します。
喜 ん で 切 腹 …(;´д`)
ツッコむこちらの方がおかしいのだろうか…みたいなテンションで話はまだまだ続きます。
先生の切腹の準備を、今林は甲斐甲斐しく手伝います。
手伝い過ぎたが為に無闇にゲイ描写が増しており、一応二人の肉体の触れ合い的な萌えも補給できます。
死出の服装は、俊男がこまごまと居間で手つだつた。まづ褌をしめるのを手つだひ、布をまはすとき、うしろから手をまはして、信二の陰茎と睾丸を一緒にギュッと握つた。
↑…まぁ、こんな具合です。いやぁ〜これまで生温いBL(?)ばっかり読んでたので、ド直球な単語が書かれていて刺激的ですわぁ…。
そして先生の肉体美がこれでもかと盛り込まれていて、はちきれんばかりです(主に筋肉が)。
そして紹介して下さったフォロワーさんもかなり気になっていらっしゃった、陰毛を表す「M毛」という謎の単語が普通に出てくるんですが、何の略なんでしょうかね…。
そして切腹シーン。
もうこれが書きたくて堪らなかったんでしょうねぇ…!!
三島先生がノリノリで筋肉と切腹を描写している図が、三島初心者にもありありと脳裏に浮かんできましたよ…!
「憂国」を読んだ時もそうでしたが、切腹の情景がリアルで痛そう…( ;∀;)
涙を流しながらも、恍惚と観察を続ける今林。
先生の死体を弄んだ後に、自分も青酸カリで自殺する算段です。
死体を弄ぶの∑(゚Д゚)⁈
今林の変態指数はこの時点で既にMAXでしたが、死体を弄ぶ計画を付け加えられて針が完全に振り切れました。優 勝 で す!!
ヤバいどころじゃねぇ…。
(※ちなみに死体を弄ぶ描写まではありません。)
暑い部屋の中には、腐つた魚のやうななまぐさい血の臭気が充ちてゐた。月に照らされてゐる白い障子だけが涼しげだが、それにも血がところどころ飛び散つてゐた。そして古くなつてかしいだ畳の上を、切腹者の血だまりからツルツルと一条の血が走つてきて、立つてゐる美少年の足の爪先を濡らした。
完
何、このはちゃめちゃにヤバい世界は…。
先生は終了時には事きれていませんが、もう瀕死なので間もなく死ぬと思います。
今林がその後どうなったかは分かりませんが、彼なら間違いなく計画通り先生の死体を弄んだ後自殺しているでしょう、と断言できそうです。
「こいつには、やると言ったらやる………『スゴ味』があるッ!」(※J○J○第五部)
肉体的な表現や二人のやりとり、切腹の情景までもがものすごく官能的に書かれていて、いや〜本当にすごかったです。
これも一つの完成された美の世界だと思わせられる三島先生の筆力に脱帽です。
ところどころに挟まれる先生の肉体美や二人が触れ合うシーンがゲイ小説な感じで、とても濃厚でした。
ヤバいヤバい連発しましたが、こんな世界はなかなか他では垣間見ることが出来ないと思うので、読めて本当に良かったです。
名前しか出てこない美少年・田所との学校生活がどのようなものだったのか、このテンションで書かれた前日譚的なものも読みたくなってきますね!
クラスの隠れ腐女子(あ、この作中だと共学ではないですかね…なら、腐男子でも良いです)がニヤニヤするような、すっごいヤバい学校生活を繰り広げてそうだなぁ…体育倉庫あたりで(*´-`)
結構読みやすく、三島先生に対してこれまで抱いていた難しすぎるイメージは払拭出来たような気がしますので、次は「煙草」と「殉教」にチャレンジしたいと思っています。
「愛の処刑」は「決定版 三島由紀夫全集 補巻 補遺・索引」(新潮社、2005年)に収録されています。
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