うみなりブログ。

アラフォー腐女子が、BL要素のある文学作品をイラスト付きでゆるく紹介します。日本近現代文学が中心。BL・同性愛的な表現が苦手な方はお気をつけ下さい。

秋田雨雀「同性の恋」

秋田雨雀(あきた・うじゃく)先生のタイトルまんまなBL文学「同性の恋」の感想です。

BL・同性愛の話題です。以下お気をつけ下さい。

またしても手に入りづらいものを紹介です_:(´ཀ`」 ∠):

すみません…。

一応公共図書館のデータベースでは見られて印刷も出来るので、「稚児と妹」や「無常迅速」よりはやや手軽ではあります…。

早稲田文学明治40年6月号

に載ってます。

全国の公共図書館内で閲覧出来る国立国会図書館のデジタルコレクションの中にありますので、気になる方は最寄りの図書館でお問い合わせ下さい。

(※2022.6.28追記

国立国会図書館に本登録していただいたら、個人宅で閲覧できるようになりました!)

 

 

以前に何度か書きました氏家幹人先生「武士道とエロス」で紹介されていた短編です。

BL文学ハマり立ての○○年前に、神奈川近代文学館で日下諗先生の短編と共にコピーを取った思い出がありますが、そのコピーは紛失してしまったので最近改めて取り直しました。

f:id:naruminarum:20220216172522j:image

読んだ印象としては、私がこれまで読んだBL文学の中で、一、二を争う大人しさです。

同僚を痛ぶったりしないですし(「日下諗「給仕の室」)、ハーレム願望振り撒いて夜な夜な下級生の腕を弄んだりもしません(川端康成「少年」)。R指定的なことは一切ないのに、無駄に雰囲気だけエロくもありませんし(堀辰雄「燃ゆる頬」)、当然強○や強制猥○なことはありえません(芥川龍之介「VITA SEXUALIS」「SODOMYの発達(仮)」)。

…このように書くと、何だか今までやたらめったらいかがわしいものばかりを読んできた気持ちになってきました。

上に書いたようないかがわしい描写は一切ないBL文学ですので、歴戦の腐女子の方々はあまり濃いBL描写には期待せずに読んでね!!

 

あまり濃くはないのですが、冒頭にはめっちゃ濃くて熱い文言があります。

 

何というて宜いでしやう?やはり恋です、男同士の恋!これ程不思議なものはない、魂と魂と合する事、昔は肉体の交りさへあつたといはるゝ男同士の恋より烈しい恋はない。

(↑旧漢字は現在のものに改めてあります。以下同じように引用します。)

 

「やはり恋です、男同士の恋!」

激熱です。

初めて読んだ時に、どんな熱い展開が繰り広げられているのかとドキドキしながら読み進めましたが、この文言が一番熱いかもしれません。

全体的には、終始秋の夕暮れの薄暗い部屋の中に居るような、静かなストーリー展開です。

 

そして、もう一つ大きな特色としては、登場人物二人が学生同士ではない点です。

近代のBL文学では学校生活を扱っているものが多いので、これは割と珍しいかもしれません。

 

とりあえずあらすじです。

森岡と山川は歳が離れた友人ですが、森岡結核にかかって亡くなります。森岡が亡くなる前の二人の精神的な結びつきを描いた作品です。

 

あまり山場らしい山場もない短編なので、あらすじもこんなものです。

 

まず、最初に始まった時点で森岡は死んでいます。いきなりですが、もう死んでいます。

そこから山川の回想という形で、ストーリーが始まります。

 

一応回想時の二人のスペックをば。

 

森岡(32)

文学士。かつて女性にこっぴどく振られて、そこから厭世的になる。結核に罹患して余命三年。無口で眼鏡の美青年。

 

山川(20前後)

元は森岡の弟(故人)の親友だった。森岡を振った女と生き写し。

 

10年程前に女に振られてからすっかり厭世的になってしまった森岡は、以降他人とあまり深く関わらずに生きてきましたが、弟が生きていた頃に出会った弟の親友である山川とだけは親しく付き合ってきました。

その理由は、森岡を振った女と山川が生き写しであったから。

森岡は自分を振った女にそっくりな山川に執着して友人関係を続けていたらしいのですね。

あらすじを説明する為に端的に書きましたが、ちょっと色々どーなんですかね…。

ノーベル賞作家並に失恋をめっちゃ引き摺っていますね。

 

そして色々と語るのですが、はっきり山川に「お前は僕の恋人だった。」と言い、かつての恋人の面影と魂が山川に宿っている(※女自身は抜け殻としてこの世の何処かに生きている)のではないか、ということまで言います。

山川は驚きつつ、

じゃ、僕等二人は一種異性の関係があつたのですね。

とすぐに受け入れ、

僕等二人は遠い永劫に、異性の愛に結ばれて居つたんかも知れませんね、君。

と答えます。

二人の気持ちを本当にはっきりセリフで書いてくれているので、非常にわかりやすくて有難いです。

白樺派の二人みたいに行間からのBL臭を無理矢理に何とかして嗅ぎ取らなくても大丈夫なんですよ、奥さん。

ただですね、ものすごくページ数の少ない短編なので割とこの展開の唐突な感じは否めません。

山川目線で進みますので、森岡はともかくとして、地の文から森岡への感情があまり感じ取れない内に、森岡を看取って一緒に死にたいとか考え始め、前世からの因縁で結ばれている云々…。

ここまででは普通に病気の友人を心配する目線しか感じられなかった為、「え?そうだったの⁈」とちょっと急展開な感じです。

折角の一人称小説なんだから、もっと地の文で森岡への好意を示しておいておくれよ…!

あまりにもそういう好意が感じられないものだから、一体何処から「同性の恋」になるのかハラハラしちゃったじゃないの、ホントにもう…!!

という訳で、残念ながらやや盛り上がりに欠けるように感じました。(当ブログ比)

 

そして手を堅く繋ぎます。

肉体的接触はこれだけです。

 

前世からの因縁まで感じているので精神的な結びつきは非常に堅固です。

BL文学は肉体的接触の描写が殆どなくても名作たりえることは百も承知ですが(例「草の花」…肉体的接触がちょっとしか無い(※それでも「同性の恋」よりはある)上に両思いにもなっていないという…それにも関わらず不朽の名作BL文学という稀有な例です。)、それにつけても、もうちょっと、あともうちょっとだけ何かが欲しかった…!!手を繋ぐ以外にも…!!!_| ̄|○ノシ バンバンッ!(床を叩く音)

などと腐り切った人間が戯言を言っていますが、適当にスルーして下さい。

 

精神的に美しく、儚い感じはとても良い雰囲気です。

もうエロ重視のBLには飽き飽きしていて、エロの無い精神的な結びつき重点なのを求めている方にはうってつけなようにも思います。

そして、BLや同性愛でなく、「男色」と書くのが相応しいかもしれません。

秋田雨雀先生も、当時の流行りの「同性愛」ではなく、どっしりとした重厚感と奥ゆかしさのある「男色」を書きたかったんだろうなぁ〜というのが何となく伝わってきます。

 

山川は

自分はこの勇ましい友の生命も、恐らく長くは続くまい、せめては孤独の友の床に侍いて、こころのありたけ看病して、看護しつくして、出来るなら此友と一所に死にたいとまで決心しました。全く此時の私の心地は丸で女でした。然しそれは、今時の女ではない、遠い遠い封建時代に、一時は、全世界、否少なくとも此の国の誇りとした勇ましい女の心です。

と考えており、

森岡

余りに中が能かつたので、運命の女神が嫉妬をして、かう男同士の果敢ない恋に落したのかも知れぬ

と言っていますので、「前世では二人は異性の恋人であった」ということが二人共からアピールされており、それにより二人の結びつきの堅固さが強調されています。「遠い遠い封建時代」と書かれている辺り、やっぱり「男色」が意識されてそうです。

 

 

最後になりましたが、始めの方に書いた登場人物二人が学生同士ではない点にもちょっと注目したいと思います。

この辺りについて真剣に書くと割と長くなりますので簡単に書きますが、明治大正辺りは学校や軍隊の中=異性の居ない環境では、同性愛はそこまで異端視されていなかったどころか流行っていたこともあるらしいんですよね。

当時の同性愛事情については「武士道とエロス」の他、こちら↑でも色々詳しかったです。

 

しかし、閉鎖環境から一歩外に出たら「同性愛者」として異端視されるという、そんな時代でもあったみたいです。

なので、学生時代の思い出や学校が舞台として書かれているものは「当時流行っていたから、自分も流行りに乗ってやったんだよ?だから自分は別にガチの同性愛者じゃないんだよ?」という作家の免罪符みたいなものにもなってそうですので、この「同性の恋」は学生でないという設定だけでも二人の真剣さが示されているのではないかと考える次第であります。

そう考えると、冒頭の文言くらいに二人が激熱に感じてきました。まぁ、森岡は死んでいるんですけど。

ただ、当時の「同性愛」は、鶏の文字が付くあの行為をしていたか否かでも、色々周囲からの見方が変わっていたんじゃないかと…🤔

それについてはまだまだ調査不足ですので、とりあえずはこの辺りで〆たいと思います。

 

上にも書きましたが、こちらの「同性の恋」が気になる方は

早稲田文学明治40年6月号

国立国会図書館のデジタルコレクションなどから探してみて下さい。自宅では見られませんが、公共図書館のデータベースからなら閲覧&印刷できますよ〜。

(※2022.6.28追記

国立国会図書館に本登録していただいたら、印刷は出来ませんが個人宅で閲覧できるようになりました!)

 

 

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