うみなりブログ。

アラフォー腐女子が、BL要素のある文学作品をイラスト付きでゆるく紹介します。日本近現代文学が中心。BL・同性愛的な表現が苦手な方はお気をつけ下さい。

初期白樺派の隠れた名作・日下諗「お島と猫」は「給仕の室」の殺害エンド?

初期白樺派・日下諗先生の「給仕の室」以外の名作「お島と猫」をご紹介したいと思います。

先に断っておきますが、「お島と猫」は雑誌の「白樺」でしか読めません。「給仕の室」みたいに何かの全集に入っていたりしません。国立国会図書館のデジタルコレクションにあれば良かったんですが、見当たりませんでした。

「白樺」は復刻版が県立図書館レベルの図書館とか大学図書館にはありますので、どうしても読みたい方は根性で探して下さい。私は神奈川県の日本近代文学館で初めて読みました。

「お島と猫」は「白樺」の明治四十四年一月号に掲載されました。12ページしかないので「給仕の室」より短いです。

概要としては、男嫌いの出戻り娘が勢い余って猫を殺してしまうという、現代だったら動物愛護団体に訴えられそうな内容のヤバい小説です。

もう完全に「給仕の室」の動物バージョンです。鬼気迫るあのテンションで書かれています。こんなのばかり書いて、日下諗先生はドSだったのかな…。

以下、ネタバレありの割と詳細なあらすじです。

主人公の杉浦島子(お島)は秋田県生まれですが、子供のない伯父夫妻に預けられて8歳からずっと東京住まいです。特に伯母さんに溺愛されて楽しく暮らしていました。

しかし呑気もののお島は美人ですが恋愛や結婚には全く興味がなく、適齢期になってもそんな感じだったので、伯父夫妻をヤキモキさせます。

19で学校を卒業した後に良い縁談が申し込まれてもどうしても行かないと言って我を張り、伯父も仕方なく断りました。その後は伯母と一緒に芝居に行ったり生き物を飼ったりして引き続き楽しい生活を送ります。お島は小さい頃には昆虫などの生き物を嬲り殺しにしたりする残酷な子でしたが、大きくなった今はそんなことをせず何でも可愛がります。

その後お島が23になった時に、とうとう高田という家に嫁ぐことになります。お島は心もとないやら少し嬉しいやらで何が何だか分からないうちに嫁入りしました。伯父の家はお島が居なくなりすっかり淋しくなりますが、お島は一ヶ月も経たないうちに3回も逃げるようにして帰省します。お島の我儘だろうと伯父は怒って追い返しますが、3度目にはお島の言い分を聞きます。しかし、お島は特に理由もなく、ただ嫌でたまらないとのこと。結局は伯父の家に帰ってきてしまいます。

このことが伯父夫妻の気を悪くしてしまったので、お島も前のように無邪気に陽気には居られなくなり、お島の心に薄暗い影を落とします。

思い返してみても、夫の何が嫌だったのかはっきり分からず、ただ男が嫌だったとしか言えない。自分は男を持つべきではない人間であると思うと更に自分が罪深い人間に思われて悲しくなります。

自分には何かを愛する心がないのかと、小さい頃の生き物を嬲り殺しにした記憶が浮かんで来ては心が枯れたような情けない気持ちになりますが、どうしても可愛いがって抱きしめるような生き物が欲しくなったお島は、ある時に実家から黒猫を貰います。

黒猫に鈴と名前をつけて溺愛するお島。この頃には大分情緒不安定になっており、急に涙ぐむこともあり、夜もなかなか寝られません。

お島はそんな不安定な気持ちを埋めるように更に黒猫を溺愛していきます。

取り止めのない妄想に苦しめられて寝られなかったある晩、一緒に寝ていた黒猫を抱きしめたり着物の中に入れたりしますが、どうしても落ち着かなくなり思い切り抱きしめて口を吸い続けます。

お島がようやく落ち着いて力を緩めた時、黒猫は力なくお島の胸の中でぐったりしていました。

外に黒猫を放り投げドアを閉めましたが、その後は物音ひとつせず、部屋の中ではお島がただ一人呆然と座っていました。

という内容です。

もうお島が情緒不安定になってからの描写がまんま「給仕の室」で、ものすごく鬼気迫る感じで書かれていました。もし「給仕の室」の続きが書かれていたらこういう感じで終わったんだろうなと思います。

日下諗先生はこういう描写が本当に上手で、主人公のどうしようもない狂おしい感情が切々と伝わってきて読んでいるこちらも苦しい気持ちになるくらいです。BL要素は一切ありませんが「給仕の室」が刺さった方には、是非読んでもらいたい作品です。

一番のネックは、冒頭にも書きましたが読める媒体が「白樺」しかないということです。

日下諗先生は死後70年以上経っているはずなので、全文載せても著作権的には大丈夫なのかな?すみません、やっぱり著作権的なことが本当によく分からないので、今回は本文は載せません。このまま何処にも再録されずに埋もれてしまうにはあまりにも惜しい名作だと思うので、その辺がクリアになればせめてこのブログで公開したいんだけどな…。もし「白樺」を探すゆとりがなくてどうしてもこの作品が読みたいという方がいらっしゃいましたら、是非コメントで著作権についてアドバイスを下さい。

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