初期白樺派・日下諗先生のSMとBL要素ありの変態小説「給仕の室」の記事、6回目です。川端康成先生の「少年」の記事の方がはるかに増えましたが(本編のページ数も関連書籍も段違いに多いですし…)、実はこの小説を語りたいが為にこのブログを開設したくらい私の中では不動のNO.1近代BL文学です。
前回の記事↓
初めての方は1回目からどうぞ↓
日下諗の「給仕の室」について熱く語る。 - うみなりブログ。
ブログを開設して最初期に語った為、肝心の「給仕の室」の本文を引用してまでは語っていませんでした。
という訳で、本文を引用して伝説のド変態小説の好きなシーンを紹介したいと思います。
文章は全て「明治文学全集 第76巻 初期白樺派文学集」(筑摩書房)より引用しています。
SM・BL要素があります。お気をつけ下さい。
此の前にも散々弄つた後で丁度こんな格構で抱き締めた事がある、其の時だつた、急に變な氣が起つて、後ろ様に落した彼れの後頭部をそつと起すと、突然(いきなり)その唇と私の唇とを合せて思切り吸つた事もあつた、誰れも見てゐた人はなかつたから
「内密(ないしよ)だよ」とあとでそつと云ひ含めて置いた、其の軟かで少し厚味のある唇は顔の白いのに反して、心持のいゝ淡紅色を帯びてゐた。
BL要素を味わえる箇所①。初めて読んだ時にこのシーンで私は「給仕の室」に堕ちました。小説内ではキスしたり抱きしめたり一緒に風呂に入ったりしかしてませんが、エロ小説並にいやらしく感じるのは私だけでしょうか…。あとこのシーンだけ切り取って改めて読むと、「彼れ」を「彼女」に変えても、何か女たらしが田舎から出てきた無知な小娘にいかがわしいことを行うようなシーンとして普通に読めるなぁとかちょっと思いました。
「御前は己が好きか、嫌ひか?」
「酷ひめにあはすからさ」と向ふむきに寝たまゝ答へた。
「苛めなければ好きかい」然しもう答へなかつた。
「又黙りやがつたな、何とか云へ」私の聲計りが眞闇な室の内に明瞭(はつきり)聞えた、(略)私は鈍太の身體を抱いて汗だらけになつて寝轉んでゐた、鈍太と私との身體から來る熱が二人の間で燃えるやうに熱してゐる、呼吸をする度に、腹のあたりは金の火鉢にでも觸る様な心持がする。
BL要素が味わえる箇所②。とりあえず主人公は鈍太を好き過ぎます。好きで好きでたまらないけど、その気持ちを自覚しそうになると「なんで俺がこんな奴を好きなんだ!」と腹を立てて鈍太を痛めつけるというとんでもないモラハラDV野郎です。鈍太は本当に主人公に好きか嫌いか言わないんですよ。あえて言わないのか、本当にアホの子なのか…。実はまともに鈍太のセリフが出てくるのはこの辺りしかないです。
私の手が鈍太の肉體の一部にでも觸れるとき、鈍太の微弱な抵抗の力が私の腕に加へられるとき、私の疳にピリ/\ツと刺すやうに感じる或る强烈な刺激がある、と思はず彼の肉をひつ捻つてもやりたくなる、泥だらけの床に引つ倒して、馬乗りになつても見たくなる。
ドSの本領発揮。泥だらけの床には実際には引っ倒してはないと思いますが、こんな発想が出てくる辺り日下諗先生もドSなんじゃないかと思われて仕方ありません。
白い腕の所々に殘つてゐる生疵や、痛みの絶えない痣を眺めて、彼はいつも淋しい顔をしてゐた、其の生疵や紫の痣は此の私がつけたのだ、此の私の疳がむず/\して、思はずつけたのだ、「鈍太堪忍してくれ、己はお前が憎らしいのではない、己程お前に同情してゐる者は仲間中に一人だつてゐやしないのだから」と腹の底では思つてゐるが、口に出すと又鈍太が締めつけたくなる。
主人公の鈍太に対する複雑な気持ちが垣間見える箇所。このもどかしい気持ちが何とも言えず、こちらまでモゾモゾしてきます。「お島と猫」もそうでしたが、日下諗先生は本当にこういう描写が上手いです。「お島と猫」についてはこちらをご覧ください。↓
初期白樺派の隠れた名作・日下諗「お島と猫」は「給仕の室」の殺害エンド? - うみなりブログ。
↑なんか絵を描こうと思ったら、「鈍太と主人公はそれぞれどのような感情だったのか、30字で述べなさい。」みたいな問題文に出来そうなラストのこのシーンをチョイスしていました。「大きく眼を見開いて」ではなく「大きな眼を見開いて」なので、鈍太ちゃんの眼が大きいことがここで初めて分かります。
色白で、心持ちの良い淡紅色の少し厚めの唇で、眼が大きい…。割と美少年なんじゃ…?鈍太ちゃんの顔立ちの美醜については全く記載がないのですが、顔立ちも主人公好みだったからこそ、ここまで行為がエスカレートしたんだろうなと想像に難くありません。
風呂に一緒に入った時にも「鈍太の柔かい滑かな肌触りを烈しく感じてゐた」り、性的にも興奮させられまくっていることが解りますので、そういう意味でも主人公は鈍太が大好きなんだろうなと解る訳です。ちなみに柔かく滑かな肌触りを烈しく感じながら抱きしめるだけなので、それ以上の行為には及びません。でも雰囲気が充分エロくていかがわしいので、エロいBLに慣れた歴戦の腐女子の方々に読んで貰っても割と満足感は得られるのではないかと勝手に思っています。
ページ数も短くてすぐに読めますので、ちょっとでも気になった方は是非図書館で探してみて下さい。「初期白樺派文学集」なら里見弴先生の実録ブロマンス小説「君と私と」も一緒に読めて、一石二鳥!あら、こんな所に「君と私と」の感想が転がっているよ?↓
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