うみなりブログ。

アラフォー腐女子が、BL要素のある文学作品をイラスト付きでゆるく紹介します。日本近現代文学が中心。BL・同性愛的な表現が苦手な方はお気をつけ下さい。

新潮文庫「少年」(川端康成「少年」⑳)

2022年3月28日に川端康成先生の「少年」が新潮文庫より発売されました。

今回はその感想と、川端先生の史実周りで調べて分かったけど書く機会が無かった事項を色々書いていこうと思います。

とうとう川端康成先生の「少年」関連記事のナンバリングが⑳になりました。

謎の充実感でいっぱいです。

BL、同性愛を主題にした作品について語っています。以下お気をつけ下さい。

文庫の感想と言っても小説本文の感想ではありません。

本文の感想はもう既に語り済みですので、下のリンクからご覧下さい。感想以外にも色々と書いていますが⑲までありますYO。

文庫本の外装や中身がどうだったかという割とどうでも良い感想です。文庫本買おうかどうか迷ってるけど、ぶっちゃけどうなの?という方向けです。

「少年」に興味あるなら買って絶対に損はしないので、悩んでいるなら買って下さい!!!(結論)

 

とりあえず毎回恒例のリンク、「少年」関連未読の方は↓

川端康成「少年」① - うみなりブログ。

前回の記事は↓

「少年」の漫画(川端康成「少年」⑲) - うみなりブログ。

これがあれば「少年」を読むのが捗る(かもしれない)相関図付き登場人物紹介はこちら↓

川端康成「少年」の登場人物(※相関図付き)(「少年」③) - うみなりブログ。

 

そういえば「掌の小説」「山の音」の新版の新潮文庫も今回同時発売されています。

没後50年のタイミングで今後も色々出版されるのかもしれませんが、川端先生の文庫の初版が入手出来る機会なんて滅多にないと思いますので、この機会に皆も集めましょう!!(ダイマ)

 

さて、早速外装から見ていきましょう。

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シックな感じです。

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いや、そうなんですけど…!!

まごうことなき「少年」ですけど…!!!

何故か英語で書かれるととても違和感がありますね…!

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裏のあらすじ。例の31枚の作文ラブレターの出だしが大分端折られていますが、分かりやすいあらすじだと思います。

「美しい後輩」と「唐突に訪れた京都嵯峨の別れ」にはちょっと不満あり。

「美しい後輩」は後述しますが、「唐突に訪れた京都嵯峨の別れ」と書かれてしまうと、京都嵯峨でどちらかが別れ話を持ち出して別れたみたいに感じてしまうのは私だけでしょうか。彼らは唐突にではなく、少しずつ没交渉になっていますので、そんなドラマチックな別れ方はしていません。

 

続いて帯。

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すみません、少し不満です。

「美しい後輩」の文字がデカデカと書かれています。

上のあらすじにも「美しい後輩」と書かれていましたが、こう書くと清野少年が美少年だと皆勘違いしてしまうではないですか。

別に清野少年を無闇にディスっている訳ではなく、作中では実際に「おろかしい顔」とか書かれているのですよ。

魂や性格は美しいと思うので、嘘ではないですけど、皆に誤解を与えそうな表現はちょっと…(´・ω・`)

まぁ、「あの川端康成が美少年と同性愛⁈」とか思わせた方が絶対売れると思うので、気持ちは分からんくはないのですが、誇大広告としてJAR◯に電話されてしまったらどうしよう…(´・ω・`)(多分されない)

 

続いて、文庫の中身。全192ページ中、巻末の他の文庫の紹介文や諸々を除いて、文章があるのは178ページまでです。

残念なことに、新字新仮名遣いですorz

(私が旧字旧仮名遣いが好きなだけなので、こうなっていても(→orz)気にしないで下さい。)

・「少年」本文

・新潮社の37冊組の「川端康成全集」に収録されている「少年」の解題

・川端先生の年譜

宇能鴻一郎先生のエッセイ「川端康成少年愛

という「少年」尽くしの構成です。

他の作品は収録されていないので、とても潔くて薄いです。


わーい!!「少年」の薄い本だー(゚∀゚)!!(違)

 

個人的には「伊豆の踊子」、更に言うなら「十六歳の日記」も一緒に入れてくれていたら(※昭和26年発行の単行本にはこの3作品が収録されている)、川端先生のルーツ的なものを辿れそうなフルコースだと思ったんですが、贅沢は言うまい…!わざわざ図書館から借りた全集を重い思いをしなくても「少年」が読める、私はそれだけで大満足です。

文庫巻末の「川端康成少年愛」は解説ではなくエッセイです。古今東西少年愛に付いて触れながら川端先生について語られていて、興味深く読みました。面白かったです。

最後に引用されている詩もとても良かったです。

文庫唯一のオリジナル要素であるエッセイを読むのを楽しみにしていらっしゃる方も居ると思いますので、エッセイの感想はこれだけに留めておきます。

本編のガッツリ解説が読みたかったような気もしますが、中途半端なページ数で解説されてもフラストレーションが溜まりそうなので、エッセイで良かったと思います。

 

一応文庫の感想としてはこんな感じです。

 

「少年」に興味あるなら買って絶対に損はしないので、悩んでいるなら是非買って読んで下さい!!!(二度目)

 

次は、川端先生の史実周りで調べて分かったけど書く機会が無かった事項を書いていきたいと思います。

よーし、テキスト(※「少年」文庫)開いてー!

p15〜「谷堂集」の詩などについて。

ひょっとして「川端康成全集 補巻一」(新潮社、1984年)に収録されていないかと思って探しましたが、どうやら無さそうです。全集の別の巻などに収録されているかも知れませんが、ちょっと分かりませんでした。

p28〜清野少年への31枚の作文ラブレターの辺りですね。

清野少年への手紙を書くきっかけとなった作文の宿題が出されていた事実を川端日記から発見しましたので、以前石濱④の記事でも引用しましたが、再度引用しておこうと思います。

青木さんの作文の題に「冬より春へ」と「東京」と二つでたので一つ冬より春へに去年の正月から中学卒業までを書かうかと思つたけれど馬鹿々々しくなつて小笠原への手紙位にお茶を濁さうと思ふ。

(「川端康成全集 補巻一」(新潮社、1984年) 當用日記 大正7年2月18日より)

青木先生から「冬より春へ」と「東京」という二つの作文が出された。

「冬より春へ」の方に"去年の正月から中学卒業まで"を書こうかと思った。

馬鹿馬鹿しくなった。

小笠原(清野少年のモデル)への手紙という体で書くことにした。

これで完成したのが31枚ある手紙です。

ちなみに

図書館に入つて宿題の作文を書かうと思つたけど頭が不透明なので止して、暫く迷つた後牛込の平松を訪ねることにした。

(「川端康成全集 補巻一」(新潮社、1984年) 當用日記 大正7年2月23日より)

とありますので、一気に書き上げた訳ではなく書いている途中でちょっとサボったりもしています。ちなみにここに登場する平松は、恐らく「少年」内では平田として清野少年の手紙の中に名前だけ登場している人物です。

 

31枚の内6枚半を作文として提出し、残りの25枚程を清野少年に、

前に原稿用紙三十一枚もお書きになつたとのこと、お送り下さい。

(p131  大正7年3月26日付の清野少年の手紙)

と請われたので送りましたが、舎監に没収されたのか清野少年には届かなかったようだ、とあります。(p136)

清野少年に請われた日付けとも合致していて、「川端康成詳細年譜」(勉誠出版、2016年)にも作文の提出が大正7年3月となっているので、上に引用した日記が作文を書くきっかけとなった宿題で間違いないと思います。

 

内容については注意を受けなかったが教師を苦笑いさせただろうとありますが(p34)、その辺りについては、川端先生の一高からの友人(第六次新思潮を一緒に発行した仲間)の鈴木彦次郎先生が

二年の作文の時間に、担当の今井老教授は苦笑をうかべながら、

「此間の作文のうちに、同性愛を主題とした小説らしいものがあった。なかなかよく書けていたが、どうも異色すぎてね。」

と、いったことがあった。私はすぐ川端だなと、思ったが、はたして、それは、のちの『少年』の主人公清野君に対する愛情をこめた手紙風の作品だった。

(鈴木彦次郎「新思潮時代の川端康成」(『歴史と人物』中央公論社、1972年7月号))

と回想しておられます。

ただ、川端日記だと1年の時・青木先生となっていますが、彦次郎先生は2年の時・今井老教授と書いています。

川端日記は当時のものですので間違いないとして、彦次郎先生の記憶違い…?それとも、川端先生、2年の時にもアレ並にヤバい何かを書いたのでしょうか…((((;゚Д゚)))))))?

 

受験生時分にはまだ少女よりも少年に誘惑を覚えるところもあったし、今もそうした情慾を作品に扱おうと考えている僕だ。(p31)

多分これを書いていたのかな、というのが、↓

「蓄生道」てう変態性質を取扱つ作を此間から思ひ立つて愈々筆を執らうと思つてゐる。

(「川端康成全集 補巻一」(新潮社、1984年) 當用日記 大正6年12月1日より)

畜生道」(※日記では「蓄」になっています)。

もう名前からアレですね…。

「変態性質論」という本に触発されて書きたくなったらしいんですが、変態性質を取り扱ったものですか…。

めちゃくちゃ読みたいんですが…。

川端日記に出てくる当時の創作類の中で一番気になりますが、残念ながら残っておらず、完成したかさえ不明です。

 

川端先生が何故作中で「宮本」になっているのかですが、早くに亡くなられた川端先生のお父さんが一時宮本姓だったので、ここから取っているのかな?と思います。

元来が身体の弱かった栄吉は、徴兵制度を免れる意味もあって養子縁組をし宮本姓を名乗っていた

(川西政明「新・日本文壇史 第三巻」(岩波書店、2010年)

 

とりあえず今回は以上になります。

またネタがあったら「少年」㉑でお会いしましょう!爆

 

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