里見弴先生の自伝風小説「小説二十五歳まで」の感想の続きです。
①はこちらからご覧下さい。
また、里見弴先生については「君と私と」関連の作品について4回に渡って語り済みです。
BL・同性愛要素あります。以下お気をつけ下さい。
↑「小説二十五歳まで」はこちらの本に載っています。
さて、この小説も「三」に入り、いよいよ終盤に差し掛かりました。一、ニ、三は書かれた時期で分けられているようです。
私は美しい少年を恋するとか、義弟(ちご)と云ふものにしたいとか云ふ心持は、これまで殆ど知らなかつた。(中略)
寧ろ美しい年上の青年を恋しく思つた。Mーと云ふ運動家の学生が、選手としてフアストベースに立つた姿が好きだつた。或る日この青年が私を抱き擁(かか)へるやうにして、「Mein Herr!さうだらう?、Mein Herrだらう?」と云つたことがある。私は乙女心のやうな耻と嬉しさとを感じた。"Mein Herr"と云ふ言葉の意味も、何となく通じた。頬を赤くしながら「さうぢやないヨ。さうぢやないヨ」と云つて私は手足をバタ/\″させた。「オヤ/\。さうぢやないのかい」とその青年は軽く云つて、私を地上に下り立たせた。この時から、何んとなくこの青年を恋する心が消えて行つた。
(p97〜98)
「頬を赤くしながら「さうぢやないヨ。さうぢやないヨ」と云つて私は手足をバタバタさせた」里見先生が可愛すぎて、またもや長く引用してしまいました。
「Mein Herr」は、ドイツ語で自分の主人や恋人へ呼びかける時に使う言葉らしいです。(Twitterでお世話になっているもこたろ雨様、詳しく教えて下さり有難うございました!)
「"旦那様"!そうだろう?(俺は君の)"旦那様"だろう?」とグイグイ来る上級生とドン引きする里見先生。
ドン引きしながらも、「私は乙女心のやうな耻と嬉しさとを感じた。」(*´-`)
「稚児と妹」で主人公が言い寄られた時の気持ちもこんな感じでしたね(*´-`)ウフフ
「稚児と妹」はこちらから
この後に「君と私と」にも登場する、惚れていたあの子が登場します。
安井くん。
「君と私と」よりも詳しく安井くんに対してどう思っていたかが書かれています。
全部引用するとさすがに長くなりすぎるので、要点のみを纏めます。
・一級下の丸々肥えた色白の顔の美少年で、特に鼻の下に薄く生えた産毛が私の心にかなった。
・本当の意味の初恋。
・男女の間の恋と少しも変るところがなかつた。殆ど一ヶ年の間、この少年を思ふ心に馳(ゆる)みはなかつた。涙を流したり、夢に見たり、遇へば動悸を感じたり、全くこの恋に憂身を窶(やつ)して居た。
・これを書いている時点(明治45年頃)では「今全く興味の消えて了つた恋」。
・この美少年を獲(え)やうとして居る青年は少なくなかつた。しかし、私の恋は一番臆病だつた。
・放課後遅くなった私は安井くんの教室に入り、安井くんの机にもたれてみた。机の中に赤い薔薇があったので、唇を押しつけてみた。
・安井くんの同級生が安井くんの懐中時計を持っていたので、それを二、三日借りられたことがとても嬉しかった。
とっても純な感じで良いですね(´∀`*)安井くんは結局志賀先生と付き合うんですけど、里見先生はそれをどんな気持ちで見つめていたんでしょうね…。
さて、いよいよ最後のエピソードです。
私に借本屋の本を勧めた山川と云ふ書生は来てからもう一年余りにもなつて、余り年も違はないところから、私とは友達のやうに親しくして居た。(中略)
山川の伯母と云ふのが浅草で芸妓屋(げいしゃや)をして居るので、よく彼はその方へ行つて、帰ると、私に
[一頁欠]
もなかつた。従つて鶏姦は殆ど知らない。お互いを女の代に使つた。どうかすると山川は、女がしかあるべきやうに、私を待つた。二人の間に愛などないことはお互に露骨に発表しながら、この相互の快楽交換は永いこと続いた。私は一方にかう云ふことをしながら、一方に安井を恋ひ慕つて、少しも矛盾を感じなかつた。たうとう私には苦しい日が来た。
(p104〜105)
完。
( ゚д゚)
アアアーー!orz
一頁欠⁈
一頁欠ーー!
肝心なところでーー!!
里見先生を腐った目でばかり見ていた天罰がとうとう下ってしまった!
という気持ちになった腐女子の皆さん、落ち着いて下さい!一旦落ち着きましょう!!(お前が一番落ち着け)
欠けている頁にはおそらく山川の伯母の芸妓屋のことしか書かれていないはず…!
芸妓屋でエロい知識を仕入れてきた山川と、何だかんだでそれを試そうという流れにこの頁でなったのでは…?
山川との間に何があったかは「従つて鶏姦は殆ど知らない。」から後に書かれていることが全てではないでしょうか…!(もこたろ雨様、冷静な分析を有難うございました…!)
具体的には書かれずに「お互いを女の代に使つた。」「この相互の快楽交換は永いこと続いた。」というところが、もう、もう…!
しかも「二人の間に愛などないことはお互に露骨に発表しながら」ですよ⁈ 割り切った大人な関係…!!(因みにこの時の里見先生は中学生です。)
あと「従つて鶏姦は殆ど知らない。」の部分なんですけど、「殆ど」ってことはちょっとは知ってるんですかーー⁈
ああ、もう一体どういうことなんですかーーー!
ハァハァ(叫び疲れ)
ああ、今回も里見先生に色々鷲掴みにされました…(*´Д`*)
BLに着目して書きましたのでこんな感想になっていますが、BL要素がない部分のが多かったので BLに興味が無い方でも割と安心して読めるかもしれません。里見先生の生い立ちに興味のある方は是非読んでみて下さい。
中途半端に終わっていますが、色々心境の変化があって「君と私と」という別の作品を書くことになったみたいですね。
ということでこの後の里見先生の身の上が気になる方は「君と私と」を読んでね!
一応相関図を作ってみました。他にも登場人物が居ましたが、とりあえずこの感想に全く関係しない人物は省いてあります。
間違いに気付かれましたら是非教えて下さい。
志賀・里見間に矢印がないのは、「小説二十五歳まで」の時点では志賀先生に対する感情が特筆されていなかったからです。
一応「君と私と」の相関図も再掲します。
見比べるとちょっと面白いかもしれません。
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