毎日めちゃくちゃ暑いので、今日は海が出てくる小川国夫先生のBL要素ありの短編「東海のほとり」の感想です。(←多分暑く無くても語ったので、取ってつけたような前置き)
BL・同性愛の話題です。以下お気をつけ下さい。
戦時中の旧制中学を舞台にした作品です。
比較的入手しやすいものでは、小川国夫「アポロンの島」(講談社文芸文庫)に収録されています。
教師の妻と仲の良い友人にそれぞれ淡い思慕を抱いている中学生が、教師の妻と友人との関係に疑心暗鬼を抱いて一人で思い悩み、結果的に恋も友情も失うというほろ苦いストーリーです。
以下、ネタバレありのあらすじ&感想です。
主人公は「小川」、旧制中学の2年生。小川=私という一人称視点でストーリーが進みます。
詳しくは分かりませんが、作者の小川国夫先生の私小説的な一面もあるのかもしれないですね。
小川には「木暮皓一」という仲のいい友達が居ます。
木暮には成績でも何でも負けたくなくてライバル心のような気持ちも抱いていますが、他の同級生が木暮と自転車に相乗りするという場面で嫉妬しながら見つめたりと、淡い思慕を抱いています。
学校の敷地内に酒井先生が奥さんと小さい子供と一緒に住んでいて、主人公は木暮に淡い思慕を抱くと同時に酒井先生の奥さんにも憧れています。奥さんはとても美しい人として描かれています。
私は、その後、この人くらい均斉の美しく、みずみずしい人に逢ったことがあるとは、今でもいえない。思い返してもこの人は理想的に美しかった。
木暮ともう一人と共に酒井先生宅で雑用を済ませた帰りに、
木暮が私と行くためにかなり廻り途をして、付き合
います。
木暮にとっても主人公は、かなり廻り道して帰っても良いくらい仲の良い友人であることが分かります。
主人公は木暮も奥さんに憧れているのではないかと思い、帰り道で奥さんの話題を振りますが会話が噛み合わずに
彼に生理的嫌悪を感じ
るものの、別れてすぐに
もう彼をゆるして
いました。次には会話が噛み合うことを確信し、また、無意識のうちにそれを望みます。
ある日、木暮が上級生に敬礼しなかったという理由で放課後に呼び出されることになった木暮と主人公。
「君は撲《なぐ》られなくても、いい。帰れよ。」
という木暮に、主人公は口では仕方ないと言いながらも
ずらりと上級生に取り囲まれ、撲られ、蹴《け》られるーーああいう意識の追附いて行けない緊張の中では感覚はいきいきと動く、拳《こぶし》と靴と砂埃《すなぼこり》、松林、遠い山、そして木暮がそばにいる……。
と妄想し、友のための殉死に魅力を感じて付き合うことにします。
「そして木暮がそばにいる……。」
ちょっと…(*´Д`*)
ここ、何だか良くないですか…(*´Д`*)
放課後、15人ほどの5年生に囲まれ、木暮と主人公は殴られます。
木暮は鳩尾を突かれて倒れ、気絶します。
上級生達が去った後、一年生に先生を連れてくるように頼んで木暮に付き添うと、主人公は眠っている木暮を
稚い子供のよう
に感じ、
彼がいとしくて堪らな
くなります。
木暮の目が覚めて、ジッと主人公を見つめます。
主人公の
目に想いが自然に籠
ります。吐く木暮を介抱します。
この時、
その笑いは私に妙に近いものだった。
という感じに、二人の精神的な距離が近づきます。
先生に宿直室で休んでいけと言われ、宿直室で横になる木暮と付き添う主人公。
話し込む二人に、
その時は全く突然な感じ
に奥さんが話しかけます。…木暮との話に夢中だったということですな。
主人公が一人になったタイミングで、「木暮を帰してはいけないから彼が帰ると言っても引き止めてくれ」と年少者を諭すような調子で奥さんに言われます。
帰ると言う木暮に、奥さんに頼まれた為しぶしぶながら主人公も反対し、木暮は先生の家に泊まることになりました。酒井先生は出張の為、先生の家で奥さんと木暮は2人きりになります(あ、乳飲み子の赤ちゃんも居ますがノーカンで)。
主人公は終始穏やかな気持ちではありません。
主人公は帰り道で「こんなにしてくれなくてもいいのに」と言いつつ、顔を上気させ目を輝かせる木暮を思い返します。
あの時木暮は私の実際と想いで感じうる美しいものの全てだった。
現タイトルは「東海のほとり」ですが、解説によると元々小川先生は「木暮皓一」というタイトルにする予定だったそうです。木暮のフルネームがタイトル…エモいです…(*´-`)
何故そのタイトルにしようとしたかを、ここの一節が一番はっきり示しているような感じがします。
今日は木暮にもっと近づける機会だったのに、それを知らず知らずののうちに逃してしまったのではないか、と主人公は思います。
そして、酒井先生の奥さんは木暮にだけ優しさを見せているのではないかと、木暮と奥さん双方に複雑な思いを抱えながら主人公は夜を過ごします。
翌朝早くに学校に行くと、白いワンピースを着た奥さんが直視に耐えないぐらい艶やかに見えます。
木暮も妙に艶っぽく、また、奥さんに対して自由にわがままに振る舞っているようにさえ感じます。
上級生から殴られた噂は広がっており、木暮は休み時間に皆に囲まれてさながらヒーローのようです。
教室で自分より優位に立っているような木暮、先生の家での奥さんへのふるまいが気になる木暮、奥さんと木暮との距離…色々な想いが入り混じり、主人公は期末試験も受けずに夏休みを迎えます。
夏休み入ってすぐに、木暮が主人公を海に誘いに来ます。二人でしばらく泳いだり魚を捕まえようとしたりした後に、急に主人公はある行為に出ます。
彼の口が濡れていた。緑の水の中に彼は足を私の方に投げ出している。私はたえ切れない気がして、彼の腹をふきらはぎにはさんだ。汐で赤くなった眼も濡れていて、はじめはいぶかしいように私を見て、やがていたずらっぽく、口唇を噛んで、私の目を覗き込んで来た。私は彼を緊《し》めた。彼の目は私をジッと見つめたままだったが、奥に何か動くものが、チカチカするようなものがあった。私はそれが消えるたびに、また見たくなるようだった。二人の体を幾十回か波が上げ下げした。ふと彼が体を動かすと
「小川、もういいだろう」
と言って、私から離れた。そして私を下からのぞき込むようにして笑うと、背を向けて沖を見ていた。真青い海は、点々と雲母のように陽をうつしていた。
よく読むとちょっと艶っぽくてとても良い感じだったので、少し長く引用しました。
ふくらはぎで木暮の腹を挟み、見つめ合いながら波に数十回揺られる…。数十回って結構長いですよね…。
一読した時にはちょっとどう捉えたら良いのかわかりませんでしたが、これは疑似性交ではないかという感想を見て成程と思いました。
疑似性交…(*´-`)
そして、上目遣いに覗き込んだり、目や唇が濡れてる描写とか、これを読んだ感じだと木暮が受けですか…?(*´Д`*)イイネ!
この時に主人公は、木暮が
私にああされるのが自然に嬉しかったのか、無意識的に私の意を迎えようとしたのか分からないが、とってつけたようではなく、彼の厚意、彼の勘の良さを感じ
ます。
しかし、すぐにずっと頭を悩ませている憂鬱な思いに支配され、帰り道でついに決定的なことを聞いてしまいます。
「酒井さんの奥さんをどう思ってるか」
木暮は答えずに主人公から離れて背中を向けます。
木暮が自分から心理的にも離れたと勝手に思った主人公は
「奥さんと何をしたんだ」
と聞きます。答えない木暮にもう一度同じことを聞くと、
「馬鹿、そんなことをきくな」
と怒りに震えた木暮に殴られます。木暮はそのまま自転車で立ち去ります。
先生の家に泊まった日から、自分から一歩離れてしまったと勝手に思い込んでいた木暮は、
いつもの生意気の層の下にあった純なかたいものを、今もはっきり私に感じさせ
ました。しかし、それを知る為に支払った代償はあまりに大きく、木暮は主人公から離れてしまい、奥さんも主人公から更に遠い人に感じられてしまったのでした。
完。
長くなりそうなので、まとめの感想は次回書きます🙏
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