うみなりブログ。

アラフォー腐女子が、BL要素のある文学作品をイラスト付きでゆるく紹介します。日本近現代文学が中心。BL・同性愛的な表現が苦手な方はお気をつけ下さい。

石濱金作「疑惑」

前回は夏だったのに、気付いたらもう冬がすぐそこに…。お久しぶりです、お元気ですか。

私はストレートネックなどからくる首肩こりと吐き気が一時酷くて読書をしたりだとかまとまった文章を書ける状態ではなかったのですが、何とかまたブログを書けるくらいには元気になりました。まだしばらくは低燃費でやっていきたいと思います。

 

さて短い文から少しずつ再開したいと思うのですが、私の推し作家である石濱金作先生の作品から色々気になる小説を見つけたので、今回はリハビリがてら簡単にご紹介したいと思います。今回はBLではないです。(※しかしながらブロマンスとして見たい自分が居る。)

 

BLじゃないし、またマイナー作家の石濱金作か…興味ないからスルーしようかな…という方へ、とりあえず私がこの小説で一番気になる点をお伝えしてから本題に入ろうと思います。

 

川 端 康 成 先 生 が 殺 人 事 件 の 犯 人 候 補 に な っ て い ま す 。

 

気になる方は、以下お付き合いいただけたら嬉しいです。

 

 

私は、川端康成先生の親友で新感覚派作家でもある石濱金作先生を色々な観点からかれこれ2年くらい推している訳なのですが、彼の作品はほぼ書籍化されていない為、少しずつ当時の雑誌から複写を集めています。

彼の著作を網羅したリストがこの世に存在しない為、独自に著作リスト を作ってはいるものの、実はまだ集め切っていません。

 

という訳で、今回も書籍化とかされていませんので、出典を明記いたします。

 

新青年昭和6年8月

 

です。

新青年』は復刻版があるので大きめの図書館や大学図書館などでしたら置いてある所があり、割と入手しやすい方ではないかと思います。

 

新青年』という雑誌は推理小説などが沢山載っていた雑誌のようですが、石濱先生も昭和一桁の頃を中心にいくつか推理小説などを掲載しています。以前取り上げた「変化する陳述」もそうですが、「疑惑」もその中の一つです。

 

簡単にあらすじを書くと、主人公は妻がありながら、妻には居場所を内緒にして不倫相手と数ヶ月同棲しています。その妻が主人公を探して主人公の友人宅を訪ねた後に行方不明になり、その後遺体として見つかって……という内容です。

 

主人公(橋場仙吉)のモデルは、間違いなく石濱先生ご本人です。

史実でも石濱先生は昭和5年頃に不倫して一人目の奥さんと離婚しているのですが、その不倫のゴタゴタの際に奥さんが川端康成先生の家に滞在中に睡眠薬を多量摂取して自殺を図るというドウシテソウナッタ…な謎の出来事が起こっていたそうです。(「私の妻は何故服毒した?」(『婦人サロン』昭和5年9月)参照)

間違いなくその時の出来事を元に小説にしたんだろうなと思いますが、とりあえず一人目の奥さんは実際には殺害などされてはおらず睡眠薬での自殺も失敗した為、生きて離婚しています。(余談ですが、その離婚前の1ヶ月くらいを石濱先生・元妻・新妻の三人で同居して過ごしていたらしいので、なんかもう頭の中がハテナマークでいっぱいです…。ドウシテソウナッタ…。(「花嫁を迎へて」(『婦人サロン』昭和5年11月)参照))

いや…いくら「元」妻でも殺すなよ(※しかも割と惨い殺され方をしている)…せめて行方不明のままか、重症で意識不明くらいにしようよ…とか思うのは私だけでしょうか…。ちなみに「子を盗み出しに」(『文藝春秋昭和9年2月)という作品でも一人目の奥さんっぽい人が作中で死んでますので、なんか…もう…色々あったのかな…と、この頃の彼の精神状態が少し心配になります。ドウシテソウナッタ…。

 

最初に書いた「川端康成先生が犯人候補」というのは、この主人公の友人(木越隆三)のモデルがどう考えても川端康成先生だからです。

とりあえず、奥さんが離婚の前に訪ねて滞在していて…という先程の情報だけで完全一致なんですが、それ以外の特徴でも、

・昭和一桁の頃に上野桜木町に妻と一緒に住んでいる。その妻には妹が居る。

・『文藝春秋』っぽい名前の雑誌社の顔馴染みである。

・主人公の10年来の親友。とりあえず紳士。

………川端先生以外におらんがな…!!

 

あのノーベル賞作家の川端先生(をモデルにした人物)が殺人事件の犯人候補になっている…他にそんな推理小説あるのか…?前代未聞じゃないか…?(もしあったら読みたいので教えて下さい)

 

勢いに任せて相関図を作ったので、一応貼っておきます。

とりあえず作中で主人公と友人の友情がところろどころで絶妙に良い感じでもあるので、ずっと川端先生と石濱先生の関係を推し続けた私もニッコリな作品なのですが、この作品には最後に「ええー⁈マジで⁈」となってしまう衝撃のラストが待っています。

 

犯人のネタバレではありませんし、この「推理小説」を読むに当たって必要な情報だと思うので、一応このブログを最後までご覧になってから元の小説を探して欲しいと思います。

衝撃のラストを前情報なく味わいたい方は自己責任でお願いします。時間とお金を掛けて入手して、読んで後悔しても知りませんよ…?

 

一応若干下に下げますね。

 

 

 

 

 

 

良いですか?

 

 

 

この小説は、犯人が分からず、真相も分からず、何も分からず、終わります。

 

石濱先生……新しすぎます………_| ̄|○ドウシテソウナッタ…_| ̄|○

 

すみません…私、ずっと推理小説と書いてきましたが、多分コレ推理小説ではないです…。

 

「疑惑」というタイトルの通り、主人公から友人に対する疑惑、友人から主人公に対する疑惑、不倫相手から主人公に対する疑惑、という三者の心理描写を中心に描いた作品となっていますが、それをメインに描くのに果たして妻を殺害までする必要はあったのか…。なんか、こう、もっと違う内容で出来なかったものなのか…。そして犯人とか真相が分からない以外には最初から最後まで推理小説みたいな書かれ方をされているコレは一体何というジャンルになるのだ…。(※私はこのようなラストだと分かるまでは普通に推理小説だと思って読んでいました。)

 

この小説は登場人物が少ないのもあり、普通に読んでいると友人が犯人でもおかしくないなと思えるんですよ…。なので、最初は普通に友人が犯人の推理小説を書こうと思って書き始めたものの、川端先生(をモデルにした人物)を殺人事件の犯人にするのはさすがに気が咎めて急遽路線変更したのではないか、そしてそのまま締切が来てしまいこのようなストーリーになってしまったのではないか…とかちょっと思いました。

 

という訳で、川端康成先生(をモデルにした人物)が殺人事件の犯人候補になっている物珍しい小説が読みたいという物好きで暇な方は、良かったら『新青年』の復刻版辺りで探して読んでみて下さい。

とりあえず文章が読みやすいですし、なかなか面白かったです。犯人が分からない以外は。

あと、石濱先生が川端先生を小説に登場させたらどんな感じになるのかという面でも、とても興味深い作品でありました。

 

 

最後にこの小説のお気に入り箇所を引用して終わります。

 

『藤ちゃん、僕は君が好きだよ、いいかい、よく覺えてゐてくれ。』

『あたしだってさうよ、あんたが好きだわよ、よくつて?』

『よし!』

『よし!』

 

主人公と不倫相手の会話ですが、この

『よし!』
『よし!』

って部分がすごく良いですね。何だ…この会話…。

 

もう一箇所、

 

そして二人は、二人同志だけでも、事件からサッパリとしたい感じを持つてゐた。

 しかし二人はまだそれは云はなかった。只默つて二人は互に相手をかばふやうな姿で立つてゐた。

 

ラストの主人公と友人ですが、「互に相手をかばふやうな」ってところがすごく良いです(*´-`)私が"BLではないがブロマンスとして見たい"と言うのはラストのこの一文があるからです。

色々妄想が(勝手に)膨らむ作品でもありました。

 

 

では今回はこの辺で。

皆様ストレートネックにはくれぐれもお気を付け下さい。

 

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